夏の交差点で―関ジャニ∞「18祭」(2022.7.16/日産スタジアム)


 まず初めに、4日間にわたるスタジアムライブ、本当にお疲れ様でした。全日程が無事終了したことにほっとしています。天候という予測できない要素もある中で、こうした大規模なイベントを実施することは並々ならぬご苦労があったことと思います。参加者の一人として、関係者の皆様に、厚く御礼申し上げます。誠にありがとうございました。



 ここからは書きたいことをごちゃごちゃに詰めたのでかなり長いです。また、ライブ内容についてのネタバレがあります。曲順は前後している場合がありますので、ご了承ください。

 


 冷静さを欠く自分を自覚したのは、コンタクトレンズを装着しているのにも関わらず、真剣に眼鏡を探していた時だった。レンズにつく雨粒を拭う手間を考えたら、少々慣れない装着感を我慢する方が良いだろうと判断したのはつい十数分前のことである。……浮かれている。シンプルに浮かれている。こんな調子なので、双眼鏡もペンライトもビニール袋も準備したのに、肝心のレインコートを買うのを忘れていた。いくつか乗換駅を経由するから、そこのコンビニか雑貨店で買おうと、少し早めに家を出ることにした。紙製のうちわは濡らすのが忍びないので留守を任せ、空きスペースに着替えとビニール袋を詰める。出来上がったデイパックを見て、相変わらず自分は荷づくりというものが不得意なのだな、と思いながら、膨れ上がったそれを背負って家を出た。

 いくつか路線を乗り換えて、スタジアムの最寄り駅まで向かう電車へと乗り込んだ。無事レインコートも購入できたので、準備は万端だ。鴨居という駅を過ぎたころ、車掌さんのアナウンスが流れてくる。「本日イベント開催の、横浜国際総合競技場日産スタジアムの最寄り駅は小机です」。その言葉に、改めて今日という日が特別な一日であることを実感する。「素敵なイベントとなりますよう、心よりお祈りしております」。添えられた言葉の温かさで、心の温度が上がるのを感じた。

 駅から数百メートルの距離を歩き、スタジアムに到着する。指定された入場時間まであと10分ほどになっていたから、そこまで待たずに入場することが出来た。列に並んで、デジタルチケットを読み込んで、座席が書かれたチケットを受け取るところは3年前と一緒だったけれど、手首での体温計測とアルコール消毒が必要になっている点が変わっていた。背景にある大きな変化のことを思い出して、気を引き締める。
 チケットに書かれていたのはスタンド2階席の文字だった。Nとも書かれているから、スタンドの北側ということらしい。西ゲートから入って通路を進み、階段を上がって、指定された入り口まで向かう。数字を探し、席に着いてステージ側を振り返った瞬間、強がりではなく「ご褒美だ」と思った。ステージの正面から少し上手寄りの位置で、全体が良く見える。ここからなら、好きな景色を思う存分堪能できそうだ。沢山詰めてきたビニール袋も、慌てて買ったレインコートも不要だったけれど、それを残念がる気持ちよりも、この高揚感と、体力の不安を感じずに観られることへの安堵の方が大きかった。
 今回も一人で来ているので、開演まではぼんやり過ごす。取り留めもない考え事に時間を使うのは得意なので、真っ白な空に浮かんだ雲が流れていく様を眺めたり、双眼鏡のピントを合わせたり、時折漂ってくる売店の食べ物の香りに「お祭りだな」などと思ったりしているうち、気付けば18時になっていた。


 モニターにデジタル時計が表示された。数字が「7:59」から「8:00」に変わる。目覚まし音のアラームと、それを手繰り寄せる手。OPのVTRが始まった。ある人は自転車で、ある人はトラックで、ある人は寝坊して家を出るところから、一人ひとりがそれぞれの方法で会場入りしてくる。トラックに積み込まれていたのは、花火の大玉だ。場面が変わり、赤い法被に身を包んだ5人が大写しになったとき、いよいよ始まる、という緊張と期待で、体に力が入った。
 赤い花火が上がる。煙の向こう、セットの上部に、メンバーカラーの衣装に身を包んだ5人がいた。スタジアムに「7月16日!大安!一粒万倍日!」という丸山さんの声が響く。そして始まった1曲目は「無責任ヒーロー」。そこからの「あおっぱな」「青春ハードパンチャー」「がむしゃら行進曲」「前向きスクリーム!」「T.W.L」と続くオープニングパートは、まさに怒涛の幕開け。ステージの上から登場し、クレーンやトロッコを使って、メインステージ、バックステージと縦横無尽に駆け巡る5人を見て、会場の空気も熱を帯びていく。新しいシングルに収録されている「CIRCLE」は、振付がとにかく可愛らしく、見ていて心が弾んだ。

 画面にあのキャラクターが現れて、ハチフェスのコーナーへ。8年ぶりに登場するとあって2Dから3Dにグレードアップしたらしい彼らは、ハチフェスは「パクリ」ではなく、あくまで「オマージュ」であることを強調する。軽快なやり取りの後で、先輩と後輩へのリスペクトを込めたあのコーナーの幕開けを告げた。
 ピンクの衣装に身を包んだ5人が登場すると、会場のボルテージは一気に上がった。ジャニーズメドレーの1曲目は、なにわ男子「初心LOVE」。続く「マスカラ」(SixTONES)、「D.D.」(Snow Man)で本気で踊る関ジャニ∞を堪能した後、丸山さんと安田さんで歌う「Anniversary」(KinKi Kids)を聴きながら澄んだ世界に心を浄化されていたところで、モニターに表示された「プレゼントがあるねん」の文字で「何かあるぞ」と一気に引き戻してくる。この流れだけでも色々起こりすぎているのに、これでメドレーの序盤というのだから恐ろしい。大きなプレゼントボックスが現れ、中から現れた横山さんが「Sexy Rose…」(「Sexy Zone」/Sexy Zone)とつぶやくと、丸山さんと安田さんが不満げに舌打ちをし、「Real Face #2」(KAT-TUN)へとつなぐ。それぞれ「18」「祭」と書かれたバルーンを付けた村上さんと大倉さんで歌う「ファンタスティポ」(トラジ・ハイジ)も、ポップで可愛らしくてとても良かった。「キミアトラクション」(Hey! Say! JUMP)で魅せるキラキラの王道も良い。
 いつの間にか定着したあのフレーズにかけた「スシ食いねェ!」(シブがき隊)は、打って変わってらしさ全開。ステージに用意されたカウンター、大将の大倉さんが見つめる中でお寿司を食べていく丸山さん。食べるふりではなく、本当に食べている。周りでは関西ジャニーズJr.のメンバーが踊っている。丸山さんは食べている。ここは日産スタジアム。このカオスに胸を躍らせている自分すら面白くなってきてしまった。「おやじ ハウマッチ!?」と聞かれた大倉さんが「100万円♡」と法外に高いお代を要求したところで、「Hey Hey おおきに毎度あり」(SMAP)へ続く。お札と八重歯を光らせている村上さんの写真が沢山出てくるのをなんとも言い表しがたい気持ちで見ていた私は、このあとこの人の"本気"に幾度となく圧倒されることになるとは、この時は想像していなかった。
 見覚えのある白い電飾のセットが映し出される。あの衣装に身を包んで、「A・R・A・SHI」(嵐)。まさか、あのラップが生で観られるなんて……。感無量というほかない。最後の落ちサビを任された丸山さんが、先ほどのお寿司の影響で歌えなくなってしまうハプニングもありながら、続いて「シンデレラガール」(King&Prince)へ。締めは「ええじゃないか」(ジャニーズWEST)。様々な魅力をぎゅっと詰めた、豪華な宝石箱のような時間だった。

 大倉さんの「関西ジャニーズJr.!」という紹介から、ジャニーズJr.コーナーへ。「エンヤコラ」という掛け声と振りが特徴的な「エンヤコラ音頭」と、「関西アイランド」の2曲を歌う。弾けるフレッシュさが眩しくて、目を細めながら見守った。
 続くブロックでは、夏を題材にした曲を連続で披露する。「罪と夏」ではバックステージに噴水が吹き上がる。「クラゲ」「Dear Summer様!!」を聴きながら、自分が初めて借りたアルバムも、初めて観たライブDVDも、どちらも「JUKE BOX」だったことを思い出して、ひとり感傷に浸っていた。「歓喜の舞台」「オモイダマ」は、目指していた特別な場所に立つ「誰かのため」という意味が強い曲だけれど、このスタジアムに立つ関ジャニ∞自身の姿とも重なって、また特別な響きを持って聞こえてくる。
 ファンからの投票で披露曲が決まる「踊SONG」「レアSONG」のコーナーは、ランキングを見ているだけでも色々な感想が生まれてきて面白い。数ある曲を抑えて選ばれた踊SONGは「マーメイド」。ギターとピアノの音色が印象的な楽曲に、衣装と炎の赤が映える。少しのMCの後でステージに椅子が運び込まれてきて、レアSONGの「アネモネ」。改めて、沢山の素敵な楽曲に彩られてきた彼らの歴史を感じる時間だった。

 ハチフェスのキャラクターのやり取りを見つつそんな感傷に浸っていると、モニターに不穏な影が2つ現れた。「B.A.D.団」のキャラクターだ。「ドームをやるまでになってなあ…」と泣き出す黒レンジャーにペースを崩されつつも、「この会場は乗っ取ったぞ!」と高らかに宣言する2人。新参者の私がまたも「歴史の教科書でみたやつだ…」と感激していると、メインステージにデフォルメではない実物の∞レンジャーが登場した。口上代わりの「∞レンジャー」と、「ER」を連続で披露する。
 曲終わり、5人の姿が幕で隠された。何が起きるのだろうと期待して待つ。人影がもう一度目の前に現れたとき、私は自分が幻を見ているのではないかとさえ思った。ステージにいたのは、カラフルなつなぎを着た戦隊ヒーローではなく、セーラー服に身を包んだ5人のアイドルだった。「あなた色に染まりたいから」「母親譲りの安産型」「好きな調味料はケチャップ」「好きな言葉は管理職」「あなたが望むならどこまでも」、とそれぞれのキャッチフレーズを披露していく彼女たちを見て、「やっと会えた」という感情が溢れ出してくる。会えるという期待なんてまったく持っていなかったはずなのに不思議だ。「わ、わたしに会えて泣いている子がいるわ……」と動揺する村子さんの姿をみて、「そりゃ泣くよ……」と心の中でつぶやく。「曲を披露させてください」との謙虚な挨拶の後で、「CANDY MY LOVE」。5年前の衝撃が蘇り、溢れ出しそうになる気持ちを堪えるように上を見上げる。メインステージ上部に掲げられている∞マークはピンク色で縁取られていて、可愛らしいリボンのようにも見えた。曲が終わり、モニターにはキャンジャニ∞の楽屋が映し出される。彼女たちのやり取りは、箸が転んでもおかしい年頃にも、重ねた年月に抗っているようにも見えて、それがなんだか無性におかしかった。

 VTRはまた変わり、楽器を持ったメンバーを一人ずつ映し出す。彩度を落とした映像に、メンバーカラーだけが鮮やかに映し出される。
 メインステージにはバンドセット。1曲目は「ここに」。自分の心構えがなかなかできずに、ずっと聴けていなかった曲だから、こうしてまた会えたことが嬉しい。続いて「ローリング・コースター」。客席いっぱいに敷き詰められた光の粒が曲に合わせて左右に動いている。私は何より、この景色が好きなのだと改めて実感する。村上さんのピアノソロの後で「夕闇トレイン」、「BJ」と続く。「さよなら」という言葉の響きが頭の中で繰り返されるのを断ち切ることが出来なかった私は、ただただスタンドの屋根に切り取られた夜空を見上げていた。
 「ズッコケ男道」と「勝手に仕上がれ」は、楽器を持ってトロッコで客席へ。歌割を飛ばしてしまった村上さんが台詞に合わせて「今ちょっと、忘れてました~!」と叫んだ時の、ほわっとした空気が好きだった。「イエローパンジーストリート」「喝采」は、改めてバンドセットで。歌詞にある優しくて心強い言葉たちを噛みしめていると、少しだけ勇気が出た気がした。

 メインステージで一人ずつの挨拶が始まる。「この気持ちをどう言葉にしたらいいか」と感慨深げに話す村上さん。「これからも僕らなりのエンターテインメントで」という決意を口にする。安田さんは、安全祈願のご祈祷の時にも雨だったというエピソードを話しながら、「御祈祷が始まった瞬間に雨が止んだんですよ」「空、見てるな~って!」と叫ぶ。「ここに来られなかったエイターも含めての願いが届いた」という言葉は、きっと誰かの心を優しく包んでいるはずだ。「ふつうの社会では生きていかれへんからこんな奴……」と内面をのぞかせつつも、「みなさんのおかげ」と感謝を繰り返したのは丸山さん。横山さんは「十祭のときも泣いてたな」と8年前を振り返りながら、「18歳で大人っていきなり言われてもね」と、ここがまだまだ青春の続きであると願うように、確かめるように口にした。緑色に染まった客席を見ながら「ペンライト変えるの早っ」とらしい一言目から始まった大倉さんの挨拶。客席に問いかけた「元気になりましたか?」という言葉に、精いっぱいの拍手で応えた。
 浴衣姿の5人が本編最後に歌うのは、「青春FIREWORKS」。曲中の音に合わせて、夜空に大輪の花が咲いた。ソロパートで珍しく言葉を詰まらせた安田さんと、花火が上がった後からずっと泣いていた横山さんの姿が目に焼き付いている。

 鳴りやまない拍手に応えるように、5人の姿が再びステージに現れた。「声が出せないから分からないけど、そういうことで合ってます?」と横山さん。「でもアンコールやらない人たちもおるからな…」と渋るメンバーに、村上さんが「やいやいやいやい……」と何度も言いかけては、タイミングを掴めずにやめる、を何度か繰り返す。しびれを切らしたように「言わせろよ!」「もう言うからな!」とのやり取りの後で、「やいやいやいやい言いな!よそはよそ!うちはうち!」と声が響いて、「∞SAKAおばちゃんROCK」から始まるメドレーへ。「好きやねん、大阪。」「モンじゃい・ビート」「関風ファイティング」「イッツ マイ ソウル」「急☆上☆Show!!」と続く、にぎやかで楽しい時間だった。
 メインステージに戻って、「All is well」。モニターに手書きの歌詞が映し出されるのを見ながら、じっくり聴き入った。曲のあと、ステージにはポールスタンドにかけられた衣装が5つ。「この衣装ってことは?」「ちょっと待ってて」と思わせぶりな言葉の後、セリで下がっていく彼らを見送り、しばらく待つ。ポップアップで登場し、最後の曲「関ジャニ∞ on the STAGE」を披露する。時間の都合がぎりぎりだったのだろう、いつもの挨拶が秒速で駆け抜けていき、3時間にわたる公演が終わった。


 規制退場を待ちながら、ぽろぽろとメモをする。あの夏ほど必死にならない自分に、もう決心はついたのだな、と思っていた。客席に色とりどりの合羽で作られたモザイクアートのような模様が、リボンのように解かれて、ひとブロックずつ水色一色に戻っていくのを眺めていた。
 退場の順番になって、会場を出る。スタジアムは5色のライトで照らされ、とても幻想的だった。外観を写真に収めてから、駅までの道を歩きはじめる。じめじめとした帰り道や電車の中で、ぽつぽつと聞こえてくる色々な感想。私は、その言葉たちの中で、自分の中にある気持ちを必死に守ろうとしている自分に気付いた。そして、いったん導き出した早まった結論を、一度白紙に戻すべきだと思った。
 乗り換え駅からは随分と人が減り、着席して帰ることが出来た。電車に揺られながら少し仮眠をすると、ぐったりした疲れが幾分か和らぐ。日付が変わる頃に家について、背負っていた荷物を下ろした。

 私はこのデイパックに、ある一つの結論を詰めていた。いい加減、区切りを付けるべきだと思っていたからだ。あの夏からずっと消せずにいた「十五祭」アプリが終了するという通知が届いて、アプリを消したとき、もうその時が来たのだな、と思った。あの時からずっと止まっていた時計を片付けようと、ぼんやりする頭で申し込んだのが、このライブだった。
 あまり詳細は書かないけれど、ここ1年ほどはずっと水の中にいるような心地だった。これは関ジャニ∞だけに対してでなく、他のものに対しても同様だけれど、何か見たり聴いたりして、それに対して文を書くということに割くだけのパワーも容量も、とうに使い果たしていた。その水の中からようやく出てきたとき、思ったよりも時間が経っていて、関ジャニ∞の背中は遠くなっていた。その時の私が、その背中を追いかけようとしたのか、はたまた近くにある別のものに目移りしたのか、それは自分が一番知っている。そして、このライブの感想と共に、それを言葉にすべきだと思っていた。まあ、結果として、その結論はどこかに置いておくことにしたのだけれど。つくづく、自分の優柔不断さと軸のぶれっぷりには呆れるばかりだ。

 関ジャニ∞に限らないけれど、ライブという空間には、色々な形の「好き」が集まっている。それが一粒の光になって造り出す幻想的な風景が、私は大好きだ。そして、その沢山の「好き」の中で、一番大事にしたいものは私自身の「好き」なのだと、改めて思う。それを一番知っているのも、大事に出来るのも自分であると、いつも思い出させてくれる。私はずっと「好き」のハードルが高い割に、持続しないのが欠点だなと思っているけれど、明確な定義は現実には存在していなくて、自分が作り上げた定義に自分で縛られているだけなのだろう。あの時ほど生活の中心、支えの中心、というわけではないかもしれないけれど、関ジャニ∞の造り出すものに心を震わせる自分がまだいるなら、それだけでいいのだろう。それだけでいいのだと思えた。

 3年前の札幌。あの夏に見ていた「未来」のことも、感じていた論理的な根拠のない期待も、いつだって鮮明に思い出すことができる。そして、私が見ている「今」は、あのとき想像していた「未来」とは違う形をしている。でも、あのとき始まった夏は、ずっと続いていたのだ。そして、夏は続いている。きっと、夏は続いていく。
 また道が交わったら、また会えたら、その時は踊りましょう。
 笑いながら会えるその時まで、私は私の道を、まっすぐ進みます。