「ここから始める」ということ―「関ジャニ's エイターテインメント GR8EST」(2018.7.15/札幌ドーム)


書きたいこと全部詰めました。
ガッツリネタバレあります。ご注意下さい…!





 バスとフェリーを乗り継いで約半日。私は生まれて初めて北の大地に降り立った。ターミナル内の売店で朝ご飯を買って、札幌行きのバスへ乗り込むために外へ出る。
見上げた苫小牧の空は、今にも泣きそうな顔をしていた。

 思えばこれまでの人生、特別な日は大体いつもこんな天気だった。きちんと数えてみたことはないけれど、今までに撮った思い出の写真、その半分くらいには鈍色の空が写っているような気がする。実はこの法則、困ったことに、学校行事に限らず、好きなアーティストのライブに行くときも大体適用される。去年初めて東京ドームにコンサートを観に行った日も、雨がぽつぽつと降っていた。高架下から一歩出て、色とりどりの傘の向こうに見た大きなビル。どんより重い雲と、いまにも浮き上がりそうな身の軽さのコントラストがなんだかおかしくて、とても印象に残っている。
 確か……いや、確かに、1週間前もこんな天気だった。その日は髪を切って、コインランドリーに行って、コンビニスイーツを食べて、11時10分からテレビの生放送を観た。美容室で出された雑誌のラインナップとか、乾燥機から取り出したタオルのふわふわとした手触りとか、もったりしたチーズケーキの甘さとか、そんなどうでもいいことは覚えているのに、肝心なあの瞬間の気持ちを、私はどこかへ閉じ込めたまま思い出せないでいた。正直、思い出そうとすればすぐにひっぱりだせたのかもしれない。でも、鍵をかけて懐に入れたその箱を再び開くことが、なんだかとても怖かったのだ。

 酔い止めが効いたのか、バスの中ではぐっすり眠ってしまっていた。札幌に着いたのは朝の9時前。それから開場の15時まで、いろいろなところを見て回った。まずいったん会場に向かってグッズを買い、そのまま札幌駅に戻ってお土産の購入と発送。コインロッカーに荷物を入れて、大通りの時計台へ(なんとまあ見事に工事中だった)。大通駅から南北線に乗り、移転前のHTB本社にも行った。お昼ご飯は回転寿司。美味しかったのは勿論だけど、案内されたカウンター席が8番だった偶然がちょっぴり嬉しかった。

 ……よし。
 南平岸駅のホームで、誰に言うでもなく、自分の中で心を決めた。大通駅まで戻って東豊線に乗り換え、プロ野球選手のラッピング車両に揺られながら福住駅へ。
 ドームまでの道、午前中降っていた雨はもうすっかり止んでいて、折りたたみ傘が裏返るほど強かった風もおさまっていた。入場列に並んだのは、開場の5分前くらい。そこからしばらく待って、入場口まで。
 係員の方にスマホの画面を見せ、印刷されたチケットを受け取った。席が見えないよう裏返しにして渡してくれたチケット、裏側のデザインを暫く眺めてから、意を決して裏返す。そのとき、瞼をふくめた全身の筋肉がぐっと上に持ち上げられるような感じがした。印字されていたのは、アリーナという文字だった。
 カップに移しかえた飲み物を抱え、掲示を見ながら落ち着かない足でふわふわと歩いた。長い階段を下りて、アリーナへ入る。確認のためにチケットを見せると、スタッフの方が席まで案内してくれた。アリーナの後方、バックステージの良く見える席。信じられず上手くはしゃげない私に「楽しんでくださいね」と言ってくださった笑顔は何となく残っているけど、そこからはよく覚えていない。2時間近く、ずっとそわそわしていた。
 
 開演は押していた。開演前映像が流れる前から始まったいつものコールが、いつになく大きく、力強く聞こえていた。
 モニターに赤ちゃんのイラストが映ったのは17時を過ぎてからだったと思う。グッズ売り場で見かけた覚えのある赤ちゃんは、思ったよりも流暢な言葉で公演中の注意をアナウンスしてくれた(途中思いっきり噛んで笑いが起きていたのはご愛嬌)。
 そこからオープニング映像が流れるまでの時間は、あっという間に感じられた。DNAのらせん。スーツ姿の足元。白と黒を基調とした映像は、とてもスタイリッシュな印象を受けた。大きく映し出された「REBORN」という文字と、「はじまり、はじまり」という声が、焼き付いて離れない。
 
 空の色に似たキラキラとした光に照らされて、バンドセットと、青いスーツ姿が6つ浮かび上がる。

つまずいてばかりの僕を 君だけは笑わなかった

 1曲目は、「応答セヨ」だった。
正直、「REBORN」という文字がずっと頭をぐるぐるしていて、よく覚えていない。その決意を持って進むスピードがあまりに速く感じられて、自分の気持ちを適切な場所に落とし込むのが追い付いていかなかった。だから、次の曲との間に錦戸さんの挨拶があることで一呼吸置けたのは、本当に助かったと思う。

 ドラムセットの真正面。見慣れない場所に立った錦戸さんが切り出す。 
「見慣れない景色だと思うけど、僕らもそう。スタッフもそう。それは彼がいたという証でもあるし。」
「…歯医者行って治療した後ってさ、歯があったところとかいらったりするでしょ。
でも次の日とかになればしなくなる。」
「このライブが終わるころには、少しでも皆さんが馴染めるような関ジャニ∞でいたいなと思います。」

 少しの静寂の後、「ようこそ」という言葉が温かく響く。その日その場所でしか観れない、「ここにしかない景色」。ようこそ、という言葉にある柔らかいぬくもりが嬉しかった。いつものベースソロが聞こえて、「NOROSHI」へ。とにかく熱い!その熱を維持したまま、「もっと盛り上がれんのか~!って『言ったじゃないか』!」。バンドセットを載せたステージがぐっと迫ってくる。その迫力に圧倒された。「なぐりガキBEAT」をバンド形式で披露するというサプライズもありながら、ムビステは頭の真上を越えて、バックステージへ。いつのまにか恒例になっていた丸山さんの「元気印~」のやりとりのあと、錦戸さんの無理矢理にも思える「明日は晴れるといいなあ~」という曲ふりで、「ココロ空モヨウ」。スタンドからの照明が目を開けていられないほど眩しくて、でも、そのライトの陰になった大倉さんの背中がとても大きく見えた。

 あれだけ眩しかった白い光が、少し暗めの青っぽい照明へ落ち着く。トランペットの柔らかい音色が響き、「Heavenly Psycho」。ムビステが再び動き出す前、錦戸さんが裏側に回ってきたときはとても驚いた。大倉さんと横山さんの2つの後姿、その間でギターを弾く錦戸さんの顔は、どこか見覚えのあるような、でも初めて見たような表情だった。ステージはゆっくりと後進し、メインステージへと戻っていく。そして、「BJ」。
 2曲が終わった後、メインモニターに大写しになった横山さんは、何かを堪えるような、かみしめるような表情をしていた。何かを振り切るように、ギュッと目をつぶって、絞り出すような叫びで客席を煽る。「ズッコケ男道」。AメロBメロのほとんどを横山さんが歌っていた。スタンドからマイクを外し、前へ進み出て、丸山さんと肩を組みなら歌う。その姿がとても楽しそうで、とても格好良かった。「ファイト!関ジャニ!無限大!エイト!」というチャントから「無責任ヒーロー」へつなぐ、この流れがとても好きだ。
 バンドパートを締めくくるのは、「LIFE~目の前の向こうへ~」。歌詞がふわりふわりと浮かび上がってくるメインモニターを観ながら、今伝えたい想いをのせた曲なのだな、と思った。バンドセットの前へ出て歌った「オモイダマ」にも、それは込められていたように思う。

 あっという間の前半戦が終わって、MC。「いきなり玉」という何とも微妙なラインのネタから始まり、安田さんは着替えのためにはけていった。
 話の中心はサタプラやドラマなどのお仕事について。面白かった~。「(サタプラも)長くやらせてもらってますね~」と穏やかに話す丸山さん、ドラマのリハのために買った浴衣を「着たら負けな気がする」錦戸さん、絶対零度のロマンスシーンについて「2話でぇ!?」と食いつく大倉さん、「俺が知りたいねん。お客さんは知らん。」と、とにかく"キッス"シーンに興味津々な村上さん。横山さんがハクション大魔王について「あれってさあ、歯は自前なの?」と謎の質問を繰り出したときの不思議な空気……。
 年下3人が着替えのためにはけ、ステージにヨコヒナが残ったときの会場といったらそれはもう尋常ではない色めき方で。ドリンクの入った籠を取りに近づいてくる村上さんに明らかに動揺していた横山さんと、そんなことお構いなしに「口濡らす??」(水分補給の意)と聞く村上さんのコントラストが本当に面白かったなあ。「(オファーが)来る役も変わるでしょ?」と訊く村上さんに「俺未だに金八先生諦めてないねん。生徒役。」と返す横山さんの顔は至って真剣だった。着替えを終えて出てきた丸山さん、錦戸さん、大倉さん3人のMCでは「蜘蛛女のキス」のキスシーンの裏側の話もあり、かなりの充実ぶりだったように思う。

 「う~ん、何か歌いたくなってきたなあ」という丸山さんの歌ふりから始まった後半戦。
 1曲目は「今」。そこから「へそ曲がり」「ER2」「がむしゃら行進曲」とシングル3曲を繋ぐ。ダンスは体への負担が少なくなるよう、ターンなどの振付が変更になっていた。トロッコでアリーナを移動し、曲終わりでメインステージに戻ってきた村上さんによって新たこやきオールスターズのメンバーが紹介される。そして暗転。

 柔らかな光が差す。ステージの上段に、ギターを抱えた安田さんの姿があった。曲は「わたし鏡」。会場に漂う穏やかな空気が本当に心地良かったのを覚えている。安田さんのソロから始まったユニットコーナーは、「torn」「パンぱんだ」「LOVE&KING」と、一種の歴史を見ているようだった。まさかあんな距離で見る日が来るとは思わなくて、その時の心境を表すなら「どえらいものを見てしまった…」という言葉が一番近いかもしれない。

 ユニットコーナー後の映像。画面の左から姿を現したヤスダーを見た時の「待ってました!」感。日替わりコーナーのMCなのに喋れないという痛恨のミス、めくり間違えたフリップが再び出てきたときの伏線回収感が素晴らしくて、やっぱりこのキャラクターは何かを持っているんだなあと思う。……まあその、結局喋ってましたけども。
 罰ゲームは村上さん。「村上さ~ん、曲ふりお願いします~」というヤスダーさんの呼びかけから、悲鳴のような声色で発せられた曲名はまさかの「ひびき」だった。

 メインステージに登場した6人は、白を基調とした衣装で「ひびき」「涙の答え」をしっとりと歌った。
 そして、聞き馴染みのある和太鼓の音が鳴る。モニターに大写しになった後姿を見て、思わず身構えてしまった。肌で感じる空気が、一気にぴんと張りつめたのが分かった。「キング オブ 男!」。もしかしたらそういう空気が伝わったのかもしれない、サビ前の「突っ張って!」はぽっかりと空いていた。ステージが動いて、また迫ってくる。錦戸さんは落ちサビをひとりで歌い上げ、ひとりで「突っ張って」いた。
 バックステージで「罪と夏」。錦戸さんがくるっ、と円を描くように手を回した動作がとても鮮やかで、そのあとすぐの「プレイバック!」という声と一緒に記憶に深く刻み込まれている。「CloveR」、「前向きスクリーム!」でメインステージへ。

 本編最後の曲の前、6人全員の挨拶があった。
 「色々な気持ちがあったと思います。すばるは男の決断をしました。僕らはすばるに負けません。」と横山さん。
 「この日が早く来ればいいなという気持ちだったんですけど、1割2割不安な気持ちもありました。でもバカなことを考えたなあ、と思います。」と話したのは丸山さん。「音楽が始まれば僕らはひとつになるわけですから。」表情はとても柔らかかった。
 大倉さんは、「いつもよりたくさんの方が来てくれたときいています。」と会場の様子にも触れながら、「延期や中止も考えたけれど、直接会えてよかったです。始まる前から盛り上げてくれてありがとうございました。」と話した。
 「最初に全部言っちゃったんですよね……」と笑った錦戸さん。冒頭のあいさつについて、「すばるくんが虫歯とかそういうことじゃないからね!…なんていうのかな、親知らず?」「最近の子は親知らず生えないらしいっすよ~僕は生えてます」と早口で。
 「……ありがとうございました!!」という強引な締めを聞いた隣の安田さんは穏やかに笑っていた。「書面やWeb連載などではなく、こうして直接言葉を伝えられてよかったです。」少しの間が開いて、「深い言葉になってしまうんですけど、患ってよかったなと思います。人の痛みがわかったのはいい経験だったかな、と。」「渋谷が好きだったっていう友達がいたら支えて、エイターみんなで支えていけたら。紆余曲折、ふらふらと一緒に進んでください。」
 村上さんは「今日歯医者として治療に当たったわけですけど、」と話し始めた。「予想だにしていなかったこと、あると思いますけど、グループだから背負えるものがあるのかな。」「不安な人がいたと思うけれどほっとできたのでは。」ずっといつも通りに見えた村上さん、挨拶で繰り返した「僕含め」という言葉に本音が見えたような気がして、少しほっとした。

 挨拶を聞きながら、ふとスタンドを見上げてみる。目に飛び込んできたのは、色とりどりのペンライトが作る、星が瞬く夜空のような光景だった。自分の頬が緩むのが分かった。気を付けなければ、ふわあ、と間抜けな声を出してしまっていたかもしれない。アリーナから見上げるペンライトの海がこんなにも綺麗なのだということを、私はその時初めて知った。と、同時に。去年のスタンド席から見た光景を思い出す。上下右左見渡す限りの赤、曲に合わせて、それが同じ方向に動いていく。その統率のとれた動きが作り出す熱のうねりが、なんだか獣のようにも思えて好きだった。もし、私が一度それを手に入れたとしたら、絶対に手放したくないと思うだろう。お気に入りの万華鏡を取り上げられた子どもみたいに、年甲斐もなく駄々をこねるんじゃないだろうか。

 手放すという決断をする勇気は、どれだけのものだったのだろう。
 渋谷すばるさんというアイドルがどんな思いでこの光景を見ていたのかは、誰にもわからないけれど。

 会場に響くバイオリンの音で、曲が分かった。関ジャニ∞を好きになってから、いつかはコンサートで聴きたいと思っていた特別な曲。
 私は、鍵を掛けてしまっておいたはずの箱のふたが開いているのにやっと気が付いた。ブルースハープの音が聞こえないことも、独特の湿り気もありながらひとたび響けばその場の空気を支配してしまう唯一無二の歌声が聞こえないことも、よく響く笑い声がないことも、話を強引に回転させていくようなパワーワードがないことも、全部全部想像できたはずなのに、向き合う準備をしないまま、ずっと見て見ぬふりをしてきたのだなあ、と思った。
 やっぱり、寂しい。寂しいなあ。

今日も誰かが めぐり逢う
遥か 遥か 西の街
恋をするなら 御堂筋から始まるのさ
雅なる物語

 歌い出しは、6人で。AメロやBメロはひとりひとりのソロで歌い繋いでいた。


 アンコールは「Sweet Parade」から始まり、「パノラマ」と「あおっぱな」。フロートやトロッコで会場を巡って、再びメインステージに。
 安田さんが「ここで皆さんにお知らせがあります」と切り出したときの会場の空気、絶対に忘れることが出来ない。ほんっとうに心臓に悪い、意地悪な間のあとで聞こえたのは、「9/5に…ニューシングルが出ます!!」という嬉しいお知らせだった。大倉さんの曲ふりで、新曲「ここに」を披露。

始まるんじゃない 始めるんだぜ

 力強く歌う6人の姿を見て、「ここから始める」という大きな決意を感じた。


 退場の順番を待ちながら、会場に流れる新曲を聴いていた。乗る予定だったバスには今から出ても間に合わない。でも、いいや、と思った。ここにいたいという気持ちに嘘をついて会場を出ていたら、絶対に後悔していただろうから。
 予定のバスから1時間あとの便に乗って、札幌を出た。フェリーに間に合うことを祈りながら、高速を走る車内で必死に文字を打つ。この日感じたことを出来るだけ覚えていたかった。忘れたくないと、強く思った。
 フェリーの出発時刻にはギリギリ間に合った。受付の横で「5分時間を下さい」と繰り返すペッパー君に申し訳なくなりながら書類を書き、搭乗手続きを済ませて通路を急いだ。荷物を置き、隣に寝ていた小さな子を起こさないように準備をしてぱたぱたと浴室に向かう。お風呂上り、自分がお昼から何も食べていないことに気付いて、自販機で買った抹茶アイスとカップラーメンを食べた。テレビに映るワールドカップ決勝をぼんやり眺めながら、7月15日が終わったことをようやく実感する。途中でお腹がいっぱいになってむりくり食べたシーフード味のラーメンが、いつもより塩っぽく感じられた。


 あれから、もう1週間が経つ。ずっと浸って居たい気持ちだったけれどそうはいかなくて、手につかない講義の課題を無理矢理終わらせたり、久しぶりに実験試料を作ったりしていた。

 私があの日見たのは、色々な覚悟だったと思う。ここにいるという覚悟、ここから始めるという覚悟。渋谷すばるさんが新しい道を踏み出す決意をした一方で、6人もまた、新しく関ジャニ∞を始める決意をしたのだと、そう思った。
 とにかくずっと、錦戸さんの気迫に圧倒されっぱなしだった。関ジャニ∞を引っ張っていくという決意が全身に感じられた。とてもとても格好良かった。ただ…こんなことを言われるのは嫌かもしれないけれど、どうか、緊張の糸を張りつめすぎないでほしいと思う。
 バックステージで見た大倉さんの大きな背中と、その左で揺れるシンバルも忘れられない。不思議な言い方だけど、「関ジャニ∞も本当に生きているんだ」と初めて思ったから。ドラムを叩きながら歌う、ということをすんなりやっているように見えたけれど、その裏側にどれだけの努力があるのか想像する気持ちは忘れないようにしたいと思った。
 横山さんは、時々とても歌いにくそうにイヤモニを押さえるような仕草をすることがあって、表情も心なしか硬いように見えた。でもやっぱり「ズッコケ男道」が本当に格好良くて。これから改めて聞くことが出来る機会もあるかもしれないけれど、何かを断ち切る様なあの「ワン!ツー!」はもうきっと聞けないと思うから、心の中に大切にしまっておきたい。
 丸山さんも、いつになく真剣な表情をしている場面が多かったように思う。だから、最後の挨拶でいつもの朗らかな笑顔が見れた時には、本当にほっとした。丸山さんの歌声はホログラムみたいだ、という例えを前に見たことがあったのだけど、このライブを観てから確かにそうだなあ、と実感している。新しい角度から見た時の「あれ、こここんな色してたんだ!」という驚きを、これから幾度となく味わえるのかもしれない。
 安田さんがあの日あの場所に立つということにも、大きな覚悟が必要だったと思う。本編では大きな違和感を見せた場面は少なかったように思うけれど、アンコールでトロッコが通った時、その身の振り方と体重ののせ方を見て、どうか無理を重ねる事だけはしないでほしいと強く思った。ヤスダー特有の空気感もソロの時の穏やかな空気も安田さんにしか出せない特別なものだから。
 繰り返しになるけれど、3ヶ月間ずっといつも通りに見えた村上さんから「僕含め」という言葉を聞いた時、ほっとした自分がいた。本編最後の曲、割り当てられた歌詞が本当にぴったりで、それを丁寧に歌う姿が本当に素敵で。実はこの1年半ずっと担当を決められなくて、どんな場所に身を置くべきかを迷う事もあったし、箱推しという言葉を遣い続けて行こうと思ったこともあったのだけれど、その歌を聴いて、自分なりに決心が付いたように思う。といっても何をしていいか分からないので、まずTwitterのテーマカラーを変えた。

 あと、やっぱり強く思ったのは、あれだけきちんとした機会をくれたはずなのに、それに向き合う姿勢がきちんとしていなかったのかなあ、ということ。とても突き放してしまうような言い方になってしまうけど、やっぱり別ものなんだな、ということと、誰も代わりにはなれないよな、という…いわばごくごく当たり前のことを感じて、でもその当たり前が本当に残酷で。渋谷さんの魅力そのものもそうだし、渋谷さんにしか引き出せないメンバーそれぞれの魅力が見られなくなるんだ、ということがようやく分かったというか。予想は出来たし、頭では理解していたつもりでも、それを実感して、それを現実のものとして噛み砕いて落とし込むことは別物だったし、それがどれほどまでに難しいものなのかをここにきて痛感している。

 ただ、あの場所で「楽しかった」、「これから楽しみだな」、と思った自分の気持ちにも嘘はつきたくなくて。やっぱり、自分の気持ちを一番大切にできるのは自分自身だと思うので、あの日感じたことは偽りなく大切に保管しておきたい。ただし、自分の気持ちを大切にすると同じように、他の人の気持ちも大切にしなければいけないな、とも思う。鑑賞マナーやモラルとかは別としても、これからの関ジャニ∞が作り出すものをどう受け取るか、それに何を感じるかは完全にその人次第で、「べき」で語れるようなものではないと思うから。



 これから私は、ことあるごとに、フェリーターミナルで見たあの空を思い返すのだと思う。
 どんよりと雲に覆われた空をじっと見ても、そこからどしゃ降りの雨が降り出すのか、光が差してくるのか、これからのことは全然分からない。でも、どんな空模様になっても、それを受け入れたい。私はそう思う。頑丈な傘でもいいし、風対策の合羽でもいい、突然の日差しに耐えられる帽子やサングラスだって、準備できるものは何でもするよ。後悔だけは、もうしたくない。


 「ここから始めさせてもらう機会をいただいたのはありがたいことだなとも思う」、錦戸さんはそう言っていた。
 ここから、「始める」ということ。この日見た特別なはじまりのことを、私はきっと一生忘れない。