夏のはじまり―関ジャニ∞「十五祭」(2019.7.14/札幌ドーム)


 お久しぶりです!
 実に何ヶ月ぶりの更新でしょうか。あ、え、5ヶ月経ってる!?という感じで、ちょっとした浦島太郎状態です。平成と令和を跨いでいるという事実にびっくり。色々ありながら、ちゃっかりライブに行ったりもしていたので、結構元気でした。そのお話も、またあとでしたいです。

 さてさて、ここからが本題!
十五祭、札幌に行きました!
もうなんか楽しすぎてコンサート中の記憶が曖昧で、もしかしたら夢だったのかもしれない!なんて思っていたのですが、どうやら現実だったみたいです。
またまたがっつりネタバレしてますのでお気をつけください!






 その日、私は海底にいた。
……正しくは、青函トンネルを通る新幹線の中、だけれど。
 楕円の窓枠は、無機質なコンクリートの壁を切り取っていく。乗り慣れた東北新幹線でも長いトンネルを通ることは良くあるし、そう考えれば至って普通の光景なのに、「いま私は海の底にいるのだ」と考えた途端にそわそわしてくるのは何故だろう。そんなことをあれこれ考えている間に、エメラルドグリーンの美しい車両は海の中の点線を跨ぐ。
「北海道へ、ようこそ。」
 車掌さんの朗らかな声が響いた。

 終点の新函館北斗駅で下車し、特急に乗り換える。鉄道で札幌へ行くには、ここからが正念場だ。列車は大地の縁をなぞるように、海沿いの線路を走る。晴れていれば空の青さや水面の煌めきが楽しめるのだろうけど、この日はあいにくの空模様だった。グレーがかった雲を眺めながら、揺れる車内で眠気に身を任せる。新函館北斗駅から約三時間半、ようやく札幌駅に到着した。
 ホテルに着いて、コンビニのドリアとザンギを食べた。少しでも北海道感を味わいたくて買ったソフトカツゲンを飲み干し、寝支度をすませてベッドに寝転がる。不思議なほどフラットな気持ちで、すっと眠りについた。

 翌朝はホテルの朝食サービスでパンを食べ、準備を整えいざ出陣。
 去年はファイターズ選手のラッピングが施されていたからだろうか、1年ぶりに乗る東豊線の車両は白が眩しく、幾分かシンプルに見えた。
 福住駅を出てドームへ向かう道、頭上には青空が見えていたけれど、時折強い風が吹いていた。その刹那、ポケットからはみ出したドニチカキップが物凄い勢いで空へ舞い上がる。風に流され、歩道をスキップするように飛んでいく紙片を慌てて追いかけた。何とかキャッチしたものの、ダッシュした甲斐もむなしく、数時間後に別の場所で紛失することになるのを、このときの私はまだ知らない。


 札幌ドームに近づくと、メンバーのイラストが描かれたフラッグと、6色の幟がぱたぱたとなびくのが目に入る。いかにも「祭り」という感じがして、徐々に実感がわいてきた。
 グッズ売り場では、大きなGR8EST BOYのぬいぐるみが出迎えてくれた。どの子がいるかは日替りらしい。前日のプレ販の際には横山さんがいたそうだが、コンサート当日は村上さんだった。
 グッズは殆ど並ばずに購入できたものの、CDとDVDの物販テントには長蛇の列ができていた。ご当地限定のクリアファイルの絵柄が可愛くて、買えそうなら…と考えていたのだが、難しそうなので断念する。開場までの間に一度札幌駅へ戻り、荷物の整理や昼食などを済ませた。そろそろ開場、という頃合いをみてドームへと向かう。


 いよいよ入場の時間。渡されたチケットをえいっ、とめくって確認すると、スタンド席だった。メインステージ近くの、下手側の席。今回のセットはメインモニターが不思議な形をしていて、ここからの角度だと、左右に出っ張った部分に遮られる形でモニターの真ん中がきちんと見えない。それは少し残念だったけれど、遠すぎず、良い距離感の席だったように思う。
 毎回早めに会場入りするのだが、去年も一昨年も1人ではすることが無くて、2時間弱の時間をもて余してばかりだった。今年は開演までの待ち時間をどう過ごそうか綿密なシミュレーションをして臨んだのだが、嬉しいことに、その必要は全くなかったらしい。会場内のモニターでは、様々な映像が上映されていた。関ジャニ∞アプリのCMに始まり、グッズ紹介CMが2種類、松竹座のシークレットライブの映像に、15周年記念のドラマダイジェストがこれまた2種類ほど。映像の合間には、バルーンの飛行船がドーム内を一周し、取り付けられたカメラの映像がモニターに流れる。それらを何度か繰り返してみているうち、気が付けば開演予定時刻の10分前になっていた。

 デジタル数字が映し出された。15:00からカウントダウンが始まる。5分ごとにガシャン、と音を立て、始まりの時間が近づいていく。残り8分台は文字が虹色に光っていて、そんな遊び心も面白かった。あっという間に残り10秒を切り、会場全体にはカウントダウンの声が響く。
 5、4、3、2、1。
 松竹座の緞帳が浮かび上がった。
 「時は2002年。」と始まり、これまでの歩みを戦国絵巻風のイラストで辿る。シングルデビュー(2004)、47都道府県統一(2007)、メトロック出演(2017)など、関ジャニ∞のターニングポイントとなる出来事に加えて、バナナジュースの乱や角煮事件などファンの印象に残った出来事も紹介されていく。思いがけず袂を分かつこととなった内さんの姿や、大きな決断をした渋谷さんの背中もはっきりと映し出されていた。

 大切な1曲目、驚きと喜びが一気にやって来る。「∞o'clock 19」。リリックはもちろん新作だ。ライトの色を合わせるのに夢中で、正確には書き起こせないのだけれど、「その色つき眼鏡からみえる景色が曇らないように」というフレーズにぐっときた。
 いつもの掛け声から、「ズッコケ男道」。近年はバンドで演奏することが多かったこの曲を、今年はダンスで披露する。あのポップな柄のスーツでステージに"這いつくばる"彼らを観て、「懐かしい」という新鮮さに感激した。続く「がむしゃら行進曲」から「T.W.L」にかけては、ずっと「これは夢かな!」と沸き上がる興奮を抑えきれず、正直なところ、記憶が曖昧である。「T.W.L」のハーモニカが聞けて、人文字が観られる、そんな2019年。ここで、クレヨンしんちゃんから15周年を祝福するメッセージが流れ、曲紹介をする陽気な声が響いて、「月曜から御めかし」へ。
 怒濤の幕開けで沸き上がった会場の照明が、一気に暗転する。バックステージに現れた6つの人影に目が釘付けになった。耳慣れたギター、「ブリュレ」。そして「一秒KISS」。ここまでしっかり踊る関ジャニ∞の姿を観られること、その事実にここまで心を揺さぶられるとは思ってもみなかった。他に上手い言葉が見つからないので素直に書くと、本当に嬉しい。「RAGE」で拳を突き上げた後、「Eightpop!!!!!!!」が流れてきたときには流石に倒れそうになった。トロッコでアリーナをめぐるのを見ているとほんの少しだけ手持ち無沙汰になるような気もしていたのだけれど、今回は1人乗りのクレーンがあって、スタンドとの距離をカバーしてくれていたのがとてもありがたかった。

 ここで映像コーナーに入る。「Lovestagram」。ひとり「ラブスタグラマー」を決め、その人の指示通りにラブラブカップル写真を撮る企画だ。左側にイエロー、ブルー、ブラックレンジャーが座り、右側に村子、倉子、丸子がいる。まさか動くキャンジャニ∞がみられるとは……!「八重歯が4本出てている人がタイプですっ!」と挨拶する村子さん、「え、Lovestagram知らないの?」「毎日やってる☆」と答える丸子さんと、その横で毒舌を飛ばすわけでもなくふんわりニコニコしているだけの倉子さん。キャンジャニちゃんのノリの良さが可愛い。今回はイエローがラブスタグラマーで、お題「いちごをあーんで食べさせ合う」を出題。指名されたのは丸子さんと倉子さん。どうする?といった表情で様子を窺う丸子さんと、一瞬でスイッチが入った表情になり、カメラをじっと見つめる倉子さんの対比が印象的だった。

 VTRが終わり、ユニットコーナーへ。アリーナ中程に設けられた花道、その上手側がスポットライトで照らされて、安田さんが歌い出す。手には大きなモナカを模したマイク。「アイスクリーム」。下手側から移動してくる錦戸さんとセンターステージで合流し、お互いにモナカを向け合う姿がとても可愛いらしかった。
 バックステージに2人。白いジャケットに、大きめの花飾りが映える。イントロが聞こえた瞬間は信じられなかったけれど、やっぱり「二人の花」だ。映像化されていないこのユニット曲が観られるとは、正直全く想像していなかった。飛び上がるほど嬉しい。ふんわりした空気感のコンビが真剣に踊る姿、その色気にすっかり魅力されてしまった。
 曲が終わってすぐ、頭の中に、ある選択肢がパッと浮ぶ。いや、まさか…と打ち消しかけた瞬間、メインステージが柔らかな深い青色で照らされ、ピアノの音色が届いてきた。トランペットの音色が続く。「はにかみオブリガード」。途中で村上さんがハンドマイクに持ち替えて舞うソロダンスの美しさといったら、それはそれはもう素晴らしくて。簡単には語れないけれど、「背中合わせ」が一番似合うのが、この「ヨコヒナ」なのかもしれない。

 ユニットコーナーのあとは、お馴染みのギターのイントロから「I to U」。メインモニターにはイメージ映像が流れ、心地よく穏やかな色のライトと共に雰囲気を作り上げていく。
 メインステージに置かれたバーチェアと、そこに腰かけるメンバー。安田さんの「僕たちにはこういう曲は少ないと思うので」という前振りから、「Street Blues」。語彙がついていかない。やっぱりすごい曲だ。薄暗いバーカウンターで交わされる2人だけの秘密のやり取り、そのクローズドな世界観を、「椅子に座って歌う」というシンプルな演出で表現している。思わず白旗をあげてしまった。
 映像が入って「ここに」。私が1年前に初めて聴いたときとは違った明るさだった。「始めるんだぜ」と自分達にも言い聞かせていた、あの時のヒリヒリした痛みが、この1年で和らいだ感じがする。

 ここでMC。メンバーが「普段どう過ごしているか」という話をリラックスしながらしてくれていたのが印象的だった。メインステージに移動し、毎回恒例「元気印~!」のあとでアコースティックコーナーへ移る。
 コンビニのCMに起用された「デイ・ドリーム・ビリーバー」を、改めてじっくり味わった。錦戸さんは「もう曲いっていい?大丈夫?」と数回確認したのち、「今回はアコースティックでは初めてやる曲が多いので」とにやりと笑う。カウントのあと、「クジラとペンギン」。温かみのあるアコースティックの音色で奏でられるこの曲、これを贅沢と呼ぶ。波間に揺蕩うような、柔らかな時間が流れる。

 暗転のあとで始まったのは、影のあるVTR。差し向けられた銃口に、一気に不安が膨らむ。ドーム全体が、あの世界への入口に引き込まれていった。銃声のあと映し出されたのは、「Black of night」。続く「Masterpiece」はK-POP的エッセンスの効いたエレクトロニクス楽曲で、前半のダンス2曲とはまた違った表情が味わえた。
 スタンドマイクを使って、「二人の涙雨」と「ナイナイアイラブユー」。ただ「昔の曲を歌いました」「ライブ未披露の曲をやりました」といった感じでは全くなく、むしろ「今だからこそ」感じられる説得力がある。「大阪ロマネスク」は、GR8ESTのアレンジ版ではなく、従来のバージョンで。また改めてじっくり聞けて嬉しい。センターステージの真上に舞う紙吹雪のきらめきが、とても美しかった。関ジャニ∞には色々な表情があるけれど、なかでも「泥臭さ」を一番表現しているのが「モンじゃい・ビート」という曲だと思う。この曲で移動し、メインステージに集まる。

 Tシャツの上に縦縞のシャツを羽織って、バンドセットへ立つ。
 バンドパートの1曲目は「crystal」。この曲を「十五祭」というあの場所で聴くと、「これまでの歩み」を描いているように聞こえてくる。目的地への確かな地図を持っていたわけでなく、いつだって自分たちの力で道を開いてきたから彼らだからこそ伝えられるメッセージだ。
 「ローリング・コースター」の歌詞は今の彼らからしたら少し若いけれど、それもまたいい味になっている。若さというエッセンスとはまた違う、思い出という味がある、というか。「Tokyoholic」からはずっと、「聴きたかったよー!待ってたよー!」という興奮が収まらなかった。『メンバーが作った曲』を披露してもらえるのは本当に贅沢だと思う。
 「勝手に仕上がれ」。初めて入ったコンサートを思い出していた。あの時はどう頑張っても「K・A・N・J・A」までしか言えなかったな、とか、そんなことまで思い出して、ひとりでクスッと笑ったり。今考えると、他のお客さんにはそれぞれの思い出がある訳で、あの広いドームの中、ひとりひとり別のタイミングで、ひとつひとつ噛み締めていたのかもしれないと思う。それはきっと、この十五祭だからこそできる曲の楽しみ方のひとつなのだ。
 バンドパートを締め括るのはやはりこの曲。「LIFE~目の前の向こうへ~」。2010年の音楽的変革の象徴であるこの曲は、2018年の関ジャニ∞の大きな節目の象徴でもあった。始まりがあれば終わりがある、終わりが来れば始まりが来る。そんな当たり前を経て奏でられる曲が、前よりもっと輝きを増している。

 熱狂のあと、錦戸さんの静かな語り口でVTRが始まった。6人のメッセージのあとで、「咲く、今。」。多分あのメッセージがなかったら、未来への不安がよぎった気がする。それくらいどきっとする歌詞だ。
 気持ちを聞いた上では、あの桜の季節から1年経って改めて別れと向き合い、これから「それぞれがどう還元していくか」というステージへ進むという決意なのだと解釈している。本編ラストの挨拶が映像であることには違和感があったけれど、「どの会場でも一言一句同じように伝えたいこと」と、「どういう言葉を伝えているのかを確かめる必要性」があったのだとしたら納得できた。多分、あの場所で「咲く、今。」を歌う理由を、間違いなく伝えるための手段なのではないかと思う。

 アンコールはシングルメドレーと「ひとつのうた」。6人が乗るフロートにMVが流れていたり、時々サングラスをかけた陽水さんが現れたり、本当に楽しかった。
 いつもの挨拶があって、終演。メインモニターに「for Johnny H. Kitagawa」と映し出されたとき、会場を包む拍手がより大きくなったように聞こえた。




 1年前のライブは「ここから始める」という決意表明だった。今思えば、あのとき感じた胸のチクッとした痛みは、彼らがライブで示した「進んでいくからついてきて」という気持ちから、悲痛なまでの焦燥を感じたからなのだと思う。といっても、当時は背中の頼もしさに隠れてはいたのだけれど。
 今年の十五祭は、本当に楽しかった。純粋に楽しいと喜べることが、何より嬉しかった。

 春先から就職活動に忙殺されていて、情報を全く追えていない時期があった。自分のことで精一杯で、番組もチェックできない。「crystal」の特典も再生せず綺麗に棚で眠ったままだ。少し前に就活を終わらせることができたものの、気持ちは切り替わらないままでいた。
 そんな中で迎えた「十五祭」は、自分の想像を遥かに上回る、素敵なコンサートだった。曲名をもじったグッズ、8色のペンライト、歴史を振り返るOP、新旧幅広い作品からバランスよく選ばれたセットリスト。関ジャニ∞のファンになってからまだ2年しか経っていないのに、これほど色々な感情と思い出をのせてしまっていることに気付かされ、自分でも驚いた。

 ライブの終演後、Twitterのフォロワーさんとお会いしてご飯を食べた。高速バスの時間までの短い間ではあったけれど、色々なお話をして、そこで1つ分かったことがあった。
 私が関ジャニ∞のファンであることは多分確かなのだけれど、「なぜ好きなのですか?」といざ聞かれると、答えるのに困ってしまう。憧憬、祈り、恋心……この気持ちを一言で言い表すのは、複雑に絡まったネックレスをほどくくらい難しい。けれども、ライブの空気感を肌で感じると、やっぱりこの空間が好きなのだなあと思うのだ。特効の温度、黄色い歓声、そしてペンライトの光。全て引っくるめて、この空間が好きだ。この空間を作る、関ジャニ∞が好きだ。



 バスは深夜の高速道路を走り、朝の函館に着いた。
 フェリーでシャワーを浴び、ごろりと寝転がる。2年前のあの時の気持ちに似たときめきを、じんわりと自覚した。

 駆け抜けた春が終わり、青い時節に別れを告げて、また新しい季節が始まる。今の関ジャニ∞がいるのは、そんな節目なのかもしれない。そこに論理的な根拠なんて全くないけれど、「ここから先も、きっとずっと楽しい」。なんだか、そんな予感がした。そして、肌で感じたその気配に、胸の高鳴りを抑えられないでいる。


 青森のフェリーターミナルを出る。見上げると、爽やかな空がそこにあった。駅へのバスを待つ間に、売店で買った金色のりんごジュースを飲み干す。照りつける日差しと、短く切った髪を強引に揺らす海風が、鈍感な私にそっと囁いた。

 ここは今、夏のはじまり。