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陽炎と冬将軍

それでも想いだけは死神に渡すものか

cinema staff「cinema staff」(2011)

好きなものについて話したくなる時ってありませんか。
私はよくあります。
連休中、時間にゆとりがあるのも手伝って、何だかそんな気分でいっぱいなので、
一番好きなアルバムについて書こうと思います。

 


最近は専ら自分の作ったプレイリストを再生することが多い。
ただ、いくら自分の好きな曲を寄せ集めて作ったとしても、「アルバム」という物の良さにはやはり勝てないと思う。
今までの人生の中で一番再生したアルバムは何だろう、と考えてみる。
候補は一つしかなかった。
cinema staffの1stフルアルバム、「cinema staff」である。


cinema staff岐阜県出身の4人組ロックバンド。
2008年にインディーズデビュー、3枚のミニアルバムと1枚のシングルをリリースしたのち、2011年6月にこのアルバムを発表した。
バンドにとって初めてのフルアルバムであった今作は、その名の通り”らしさ”と自信の詰まった名盤である。
複雑に絡み合うサウンドとキャッチーなメロディーが共存し、美しいボーカルが映える。
ひとつひとつ独特の世界が広がる歌詞には、こちらの想像力を掻き立てる余白があり、一種の短編小説のようにも感じられる。
アルバムを通して聴くと、「白い砂漠」から「海」へと向かう、一つの旅物語を読んでいるような気分になるのだ。


1曲目の「白い砂漠のマーチ」、イントロのギターフレーズが旅の始まりを告げる。
タイトルは「マーチ」ではあるが、リズムは曲中で複雑に変わっていく。
サビは三拍子のリズムで、少しワルツっぽさもあって面白い。
旅の始まりに相応しい、高揚感のある一曲。

続く「火傷」。私はこの曲のイントロが大好きで、未だに聴く度に涙が出そうになる。
サビの入り、どこまでも広がっていくような伸びやかなボーカルも好きだ。
初めて聴いた時の感動は今でも鮮明に覚えている。

その2曲の後に来るのが、アルバムのリードトラック「skeleton」。

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僕たちはうまくやれる。

高らかに歌われるこの言葉には、少し強がりの混ざった、それでいて確かな自信が感じられる。

 続く4曲目の「明晰夢」。
全体的に想像力を必要とする歌詞が多い中で、中々難易度の高い曲だと思っている。
いや、そこが好きなのだけれど。
演奏自体も複雑で、ともすると難解すぎる曲になりかねないのだが、そこをポップに仕上げるメロディーの力は本当に凄い。

 「You Equal Me」はかなりユニークで楽しいリズムが特徴。
言葉遊びがふんだんに盛り込まれている歌詞も面白い。
「明後日」「去って」「待って」で韻を踏むのも好きだし、最後のフレーズも良い。

6曲目の「super throw」は、それまでの5曲とは雰囲気が異なり、マイナー主体の攻撃的なサウンド。
サビの言葉遊び的な歌詞も好き。

続く「cockpit」。イントロのドラムのタム回しとギターの美しいアルペジオに、思わず聴き惚れてしまう。1回目のAメロ終わりに裏で鳴っているベースのフレーズも良い。
歌詞もお気に入り。戦闘機を私的に利用して愛するあの子の元へ向かうパイロットの姿を、少しお茶目に書いている。

実験室」は、実験室の静寂の中、言葉だけがゆらゆらとしているような不思議な感覚を覚える。
サビの盛り上がりは、それまで溜め込んでいた全てを吐き出すようで、とてもドラマチック。

錆のテーマ」、おとぎ話のテーマのようでありつつも一筋縄ではいかない、とてもユニークな一曲。
イントロやアウトロのギターが面白くて好き。

10曲目の「どうやら」は、ここまで続いた旅の物語のクライマックスがすぐ近くにあることを知らせてくれる。
今作の中で一番古い楽曲だったそうだが、個人的にはこのアルバムの最後から2番目という配置がこの上なくピッタリはまっているように思える。

ラストを飾る「海について」は、7分を超える三部構成の大作。
この曲に、余計な説明はいらない。ただ聴いてほしい。名曲だから。


この自信の詰まったアルバムが、私は世界で一番好きだ。
毎日毎日、何度も何度も繰り返し聴いていたあの日々から6年が経とうとしているが、
未だに新しい発見があったりするのも面白い。

あの日、まだ皺も付いていない新しい夏用セーラーを着ていた私はもう20歳を過ぎ、当時の4人の年齢にあと2年で追いつこうとしている。
「まだライブに行ったことがありません。いつか絶対に行きたいと思っています」
まさか番組の中で読まれることは無いとは思うけれど、と思いつつラジオに送った、ファンレターまがいのメールに書いた文だ。
結局読まれて、嬉しい反面、「もう少しきちんと文を練れば良かった」と反省したのを覚えている。
これを6年経った今も未だ言い続けることになるとは思ってもみなかったけれど。

今年の夏こそ、ライブに行くつもりだ。
つもり、というより、予定が狂わない限りは行く。そう決めている。
今作を引っ提げて大海原へ漕ぎ出した彼らが、それ以降もコンスタントに作品をリリースし、今も誰一人欠けることなく音楽を鳴らし続けているのは、決して当たり前ではないのだと思う。
その奇跡に、感謝せずにはいられない。

きっとこの6年、順風満帆だったわけではないと思う。
かくいう私も、あの時想像していた未来とは違う場所で、違うことをして生きている。
でも何があったって結局は信じるしかないのだ。

「僕たちはうまくやれる。」